インクと爪跡

不器用にあつめた刹那の花束

2022-01-01から1ヶ月間の記事一覧

短編「嫉妬心」

嫉妬心 「大きな半月ね」 握り潰されたような心臓の感覚にわずかにのけ反って、浩史は眠気で膠着していた視線を少しずつ左に向けた。白っぽい月明かりに照らされた優布子の静かな横顔は、何も語らずに、漂う暗夜を溶かしていた。 艷を揺らす黒の睫毛は薄いま…

薄字の題名

文章、あぁ。 止めることは容易くて、継続することもまた、容易い。たった、それだけだったなら。生まれる時代を間違えなければ、僕は紙と鉛筆を持って、地球の底に溺れるだけだったろう。それがどんなに美しい史実となったか。誰にも知られない、淋しくて嬉…