インクと爪跡

不器用にあつめた刹那の花束

「令和3年8月15日」

令和3年8月15日


 軽やかな足取りで跳躍を繰り返して、すべるつま先は重い亀裂を走らせ、押し込んだかかとは涼やかな波紋を震え起こす、この気候は一体どこからいらしたの?肌を撫でる繊細な風は赤ん坊のように無知な暴力性を持って、けれど老婆の腕そっくりな柔らかさで抱擁してくるのだから戸惑ってしまう。背中を押されても頭を上げるくらいなのに、向かいから全身をさらわれそうになると目をギュッと閉じなければ耐えられなかった。今日はターミナル駅の構内を少し散歩したけれど、あたたかそうな薄い洋服を着ている人は皆んな、暖炉に当たっている時みたいに穏やかな表情をしていたわ。そして屋根と壁のあるところにとても落ち着いている様だった。私はカタカタ、上体を小刻みに震わせて体を熱心に温めていた。だって真夏の洋装だったのよ……。慣れることはないけれど、笑えばくすぐったさが増す寒さが家路につくまでずっと続いていた。あなたは日の差さない大昔のように思い出の白い今日の昼、どう過ごされたの?今晩は遅くまで、温かくして過ごさないといけないわね。




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